コンボ理論の有用性を検証する - koba::blog では 電脳麻将 の牌の危険度決定アルゴリズムを単純に コンボ理論 に置き換えて対戦シミュレーションを行いました。 今回は、危険度決定アルゴリズムが実際に当たり牌をどの程度正しく予想できているか、という観点で実際の天鳳の牌譜を使って評価してみます。
2024年の天鳳 鳳凰卓 東南戦 184,426 戦における、フリテン・カラテン*1および国士無双のリーチを除く全ての「先制リーチ」*2について、リーチ者の下家目線*3でリーチ宣言直後とその局の最後のツモの直後のタイミングで危険度を計算し、リーチの実際の待ちとの乖離で評価します。 リーチ後の見逃しによるフリテンが発生した場合は、その局の最後のツモでの評価は行いません。
上図の局面*4を例に評価対象とする危険度決定アルゴリズムを説明します。 危険度はその総和を 1 とする確率と見なせるように正規化します*5。
現物以外の全ての牌の危険度を同一とします。 上記の例の場合、現物は11種なので、正規化した危険度は 1 / (34 - 11) = 0.043 となります。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
m | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | |||
p | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | ||
s | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | 0.043 | |
z | 0.043 | 0.043 |
考え得る最悪の方法であるので、この方法を評価の基準とします。
各牌について、捨て牌・自身の手牌・他者の副露面子・ドラ表示牌として見えていない牌を使って対子・刻子・順子を構成できる組合せの数をコンボ数とします。 具体的には、
の総和となります。
上記の例で実際に当たり牌であった のコンボ数は 3 + 3 + (0 × 2) + (2 × 2) + (2 × 2) = 14 となり、コンボ数の総和が 279 なので、正規化した危険度は 14 / 279 = 0.050 となります。
上段をコンボ数、下段を正規化した危険度とすると全ての牌の危険度は以下となります。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
m | 12 0.043 | 18 0.065 | 19 0.068 | 15 0.054 | 15 0.054 | 12 0.043 | |||
p | 7 0.025 | 11 0.039 | 23 0.082 | 20 0.072 | 19 0.068 | 18 0.065 | 7 0.025 | ||
s | 7 0.025 | 10 0.036 | 7 0.025 | 11 0.039 | 7 0.025 | 14 0.050 | 15 0.054 | 9 0.032 | |
z | 3 0.011 | 0 0.000 |
電脳麻将で過去に採用していた方式です。 『現代麻雀技術論』の「牌の危険度」 を参考にした以下の 表を元に危険度を決定していました。
牌の種類 | 無スジ | 片スジ | スジ | 生牌 | 1枚切れ | 2枚切れ | ラス牌 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
字牌 | − | − | − | 3 | 2 | 1 | 0 |
1・9牌 | 6 | − | 3 | − | − | − | − |
2・8牌 | 8 | − | 4 | − | − | − | − |
3・7牌 | 8 | − | 5 | − | − | − | − |
4・5・6牌 | 12 | 8 | 4 | − | − | − | − |
上記の例で は「無スジ 3・7牌」になるので危険度は 8、正規化すると 8 / 179 = 0.045 となります*6。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
m | 8 0.045 | 8 0.045 | 8 0.045 | 8 0.045 | 8 0.045 | 8 0.045 | |||
p | 8 0.045 | 8 0.045 | 12 0.068 | 12 0.068 | 5 0.028 | 8 0.045 | 6 0.034 | ||
s | 6 0.034 | 8 0.045 | 12 0.068 | 12 0.068 | 8 0.045 | 8 0.045 | 8 0.045 | 6 0.034 | |
z | 2 0.011 | 0 0.000 |
電脳麻将の現在のアルゴリズムです。 以下の 表 に基づき、危険度を決定します。
単騎 | 双碰 | 嵌張 | 辺張 | 両面 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
字牌 | 1 | 2 | 3 | |||
1・9牌 | 1 | 2 | 10 | 13 | ||
2・8牌 | 1 | 2 | 3 | 10 | 16 | |
3・7牌 | 1 | 2 | 3 | 3 | 10 | 19 |
4・5・6牌 | 1 | 2 | 3 | 20 | 26 |
上記の例で は
のカベにより両面が否定されるので危険度は 9、正規化すると 9 / 314 = 0.029 となります*7。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
m | 13 0.041 | 16 0.051 | 14 0.045 | 16 0.051 | 16 0.051 | 13 0.041 | |||
p | 13 0.041 | 16 0.051 | 26 0.083 | 26 0.083 | 7 0.022 | 16 0.051 | 11 0.035 | ||
s | 11 0.035 | 14 0.045 | 11 0.035 | 23 0.073 | 11 0.035 | 9 0.029 | 16 0.051 | 13 0.041 | |
z | 3 0.010 | 0 0.000 |
電脳麻将の現在のアルゴリズムをコンボ理論を使って改良してみます。 電脳麻将の現在のアルゴリズムでは待ちの形をカベのみで否定していますが、ここにコンボ理論を適用しコンボ数を待ちの「厚さ」とします。
上記の例で は 1 × (3 / 3) + 2 × (3 / 3) + 3 × (2 × 2 / 16) + 3 × (2 × 2 / 16) + 10 × (0 × 2 / 16) = 4.50、正規化すると 4.50 / 125.65 = 0.036 となります。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
m | 6.75 0.054 | 7.88 0.063 | 7.65 0.061 | 6.21 0.049 | 6.21 0.049 | 6.96 0.055 | |||
p | 3.83 0.031 | 4.58 0.036 | 10.33 0.082 | 10.00 0.080 | 3.71 0.030 | 8.75 0.070 | 4.08 0.032 | ||
s | 4.08 0.032 | 3.33 0.027 | 4.08 0.032 | 6.00 0.048 | 4.08 0.032 | 4.50 0.036 | 6.21 0.049 | 5.08 0.040 | |
z | 1.33 0.011 | 0.00 0.000 |
天鳳 鳳凰卓 東南戦の1年分の牌譜を例に牌の危険度を計算し、実際の待ちとの乖離を 二乗平均平方根誤差 と 交差エントロピー誤差 で評価します。
ある牌の予測危険度を pi 、実際の危険度を yi とすると、二乗平均平方根誤差 は
で求めることができます。
ある牌が実際に待ちである場合は yi は 1、待ちでない場合は 0 としますが、両面待ちなど複数の牌が待ちになっている場合はその総和が 1 となるよう正規化します。
例えば
が待ちとなっているときは、そのそれぞれの危険度を 0.5 とします。
最初の例の局面における危険度をコンボ理論で計算した場合、その二乗平均平方根誤差は 0.16739、電脳麻将(現方式)では 0.17102 になります。 値が 0 に近いほど予測は正しいと評価できます。
ある牌の予測危険度を pi 、実際の危険度を yi とすると、交差エントロピー誤差 は
で求めることができます。 交差エントロピーでは実際の危険度は 0 か 1 のどちらかであり正規化はしません。 そのため上記式は、その牌が待ちであるときは log( pi )、待ちでないときは log( 1 − pi ) とした総和になります*8。 複数の牌が待ちになっている場合は、そのそれぞれについて交差エントロピーを求め、その平均を解とします。
最初の例の局面における危険度をコンボ理論で計算した場合、その交差エントロピー誤差は 3.96832、電脳麻将(現方式)では 4.55003 になります。
2024年の天鳳 鳳凰卓 東南戦 1年分の牌譜データを用いて牌の危険度を計算し、それを二乗平均平方根誤差と交差エントロピー誤差で評価しました。 評価には以下のプログラムを使用しました。
評価結果は以下のとおりです。
二乗平均平方根誤差 | 交差エントロピー誤差 | |||
---|---|---|---|---|
立直直後 | 終局直前 | 立直直後 | 終局直前 | |
推定なし | 0.12929 | 0.12717 | 4.24517 | 3.87907 |
コンボ理論 | 0.12840 | 0.12613 | 4.12743 | 3.79744 |
電脳麻将(旧方式) | 0.12839 | 0.12587 | 4.12966 | 3.78530 |
電脳麻将(現方式) | 0.12830 | 0.12545 | 4.12207 | 3.76095 |
電脳麻将(改良案) | 0.12818 | 0.12560 | 4.11313 | 3.77279 |
この結果を見る限り コンボ理論はそのままでは適用できない と思われます*9。 電脳麻将の現方式とコンボ理論を組み合わせた電脳麻将の改良案は有望そうですが、局終盤で精度が悪くなる点が気になります*10。